畜淫池

「ちく…いん…ち?」 「そうです、『蓄淫』池でございます」全くもって聞き慣れない単語に、脳内にかかった蜘蛛の巣を振り払うべく頭を振った。まず音声だけではその意味がまるでわからない。頭を傾げる男二人を前に、その商人はここぞ...

どんな名でもこの花は

長い間ひとりで噛み締めてきた思いがある。そいつには名前がない。ただ不快なのかというとそれも違う。噛み締めすぎて苦味に慣れてしまった感があるのが笑えてしまうほどだ。かと言って仕込みが終わった後の一服で誤魔化せるほど簡単なも...

詩人

海の色は青じゃねェんだなと隣の剣士が呟いた。刻の頃は、見張りのおれとゾロ以外寝静まった真夜中だ。しかも今夜は新月、珍しく平穏な航路は見渡す限り闇に包まれている。 「そりゃまあ、少なくとも今は青じゃねェよな」 四角い窓の外...

両翼は傷に深し

翼が欲しい。そう思っていた。いつからか?記憶の底にあるのは、土砂降りの雨の中をレインコートを着て大きなバスケットを持って歩いていた、出来損ないの弱っちいおれ。早く、早く行かなきゃと気ばかり焦っても小さい足は歩幅も稼げず、...

命綱

Side ZORO 身体中に重く堆積した疲労が手足を縛り、身動きが取れない。動かせるのは目玉だけだ。ゾロは、霞む視界をなんとか動かして、勝負の行方を確かめようとした。しかし、もうもうと立ちのぼる土煙に遮られ、己が何処に居...

フェスsz

『新世界からお越しのサンジ様、新世界からお越しのサンジ様、お連れ様がお待ちです。インフォメーションセンターまでお越しください、繰り返します。新世界からお越しのサンジ様…』 「だーーッ!あんの迷子野郎、やっと見つけたぜ!」...

始まりの話をしよう

「海賊狩りを捕らえたぞ!」 扉の向こうから、気勢を上げる野太い大合唱が聞こえて来る。 海賊狩りだと? まさかあのアホ。 この島の大切な特産物を密輸している船が停泊しているというんで、この島の住人たちにたっての願いだからと...

刻すでに甘し

思いがけずよく笑う野郎だと思った。おれに対して以外の奴らには。しかめ面が緩むのはどんな時かも見切った。酒をかっ食らっている真っ最中。寝ているようでも敵の気配には誰よりも敏い。そんな男が隙を作る時があるのを知る。(厳ついだ...

ひとひら問答

「お前、恋占い知ってるか?花びらを一枚ずつちぎって…」 「あぁ?花びら?」 「そう、こう、マーガレットとかな、ちぎりやすい花を一枚ずつ順番に『好き、嫌い、好き…』ってな。で、最後に残ったのが」 「最初に数えりゃ分かるんじ...

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