「なぜおれがあいつの下に……そうかジンベエ、てめェもか……!」
怒りのあまり発火しているサンジを、ジンベエは不思議そうに眺めた。何をそれほど怒り狂っているのか理解できないでいたのだ。
「大丈夫かサンジどうした?」
するとすかさずゾロが言うのだった。
「気にすんな、4位のやつなんて。はははは」
途端に起き上がるが早いが、サンジの鋭い蹴りがゾロめがけて飛んでくる。激しい喧嘩が勃発し、慌ててジンベエは諌めようとした。この麦わらの両翼と言われる男二人が狭い船内で全力で争おうものなら船体がどうなる事かと危惧したのである。
しかし、他のクルーは取り合うどころか振り向きさえしない。ナミはナミで船長であるルフィに対して鬼のように激昂しているわ、狙撃手はなぜか泣き叫ぶわで、もはやカオスだ。
やれやれ…これが麦わらの一味の日常なのかとようやく腑に落ちた所で、いまだに甲板でやり合っている二人を見やる。どうやら懸賞金額を競っていたらしいのだが、これほど互いの金額を目の敵にしているのはこの二人だけのようだ。明らかにゾロは、サンジの怒りに敢えて油を注ぐように煽っていたのだ。普段は冷静な剣士と見ていたのだが、珍しいもんじゃとジンベエは思った。
なるほどこのデッドヒートは、おそらくルフィが海賊王になるまで続く事だろう。今ヒヤヒヤした所で始まらん。ジンベエはそう理解した。
あの二人にとってのケンカが何なのか、そして懸賞金に限らず吹っかけたケンカは必ず買われる事をジンベエが知るのはもうまもなくの話。
そしてケンカをしない二人を見かけてしまうのも、さらにもう少し後の話だ。