海の色は青じゃねェんだなと隣の剣士が呟いた。刻の頃は、見張りのおれとゾロ以外寝静まった真夜中だ。しかも今夜は新月、珍しく平穏な航路は見渡す限り闇に包まれている。
「そりゃまあ、少なくとも今は青じゃねェよな」
四角い窓の外を覗きながら言うと、そうじゃねェとゾロは答えた。
「海ってのは鏡なんだろ、そもそもはデカい水の溜まりだ。たまたま頭上の空が映れば青くなる」
そうだった、コイツはたまに真を突く事を言いやがるんだ。
「今日の夕方は金色だった」
「へえ?」
コイツが色彩をちゃんと認識していた事にも驚くが、もっと驚いたのは次の台詞だ。
「お前、海で産まれたのか」
たしかにおれの故郷のクソ王国は、地上にある国じゃない。けどそれをコイツに話した事はないはずだが。思わず呆然とゾロを見つめていると、ニヤと口角を上げて得意げに言った。
「アタリだろ」
「……まあその通りだが、何なんだよ」
「てめェの色だったからよ、海が」
虚をつかれた。ゾロの口から出た言葉とは思えない。詩情とは無縁な野郎だと思っていたおれが間違っていたのか。海は青いと思い込むような。
「ど、どうした?てめェにしちゃ、いい読みだがよ」
「てめェが海なのか、海がてめェに似てんのか、どっちだ」
畳み掛けてくる問いにどう切り返せばいいかも分からずに、知りてェなら自分で確かめてみろとゾロの顎を取った。