今年最後のいのちの波動を見せつけるかのように、今が錦と彩どり豊かな葉を青い天いっぱいに広げた樹林のなかで、常に変わらず緑の葉を為している木々がある。
「てめェみてえ」
ボソッと、確信犯的に呟いた男の頭上には、同じ色をした銀杏の葉が吹雪のように舞っていた。
お伽噺に興味はないが、もしコイツが童話みたいな世界に取り込まれたならきっとこんな光景かもしれない。そんなくだらない事を取り止めもなく考えていると、隣の男が肩に腕を回してきて言った。
「なあ、聞いてたか?」
「離せ、何をだ」
「てめェみてえな木があんな、って言ってんだよ」
「どこがおれだ」
「周りが葉っぱ落としてく中、空気読まずドヤ顔してやがる」
くく、と笑う耳元の低音と、離れる気配のない肩の重みに、色づく木々の気分が分かった気がしてどうにも腹の座りが悪い。
「離せ、って」
「いいだろ、今くれェ」
そう言ってさらに首を締め付けてくる二の腕と冷たい耳が頬に密着してくる。
見渡す限りの極彩色な観客にはどう見えるか知らないが、たしかに今くれェならいいだろうと思ったおれも大概だろう。
回された腕の熱と圧が増せば増すほど腹の底に疼き始める魑魅魍魎の正体は、どうせもうじきコイツだけのものになるのだ。
紅に染まれば
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