畜淫池

「ちく…いん…ち?」 「そうです、『蓄淫』池でございます」全くもって聞き慣れない単語に、脳内にかかった蜘蛛の巣を振り払うべく頭を振った。まず音声だけではその意味がまるでわからない。頭を傾げる男二人を前に、その商人はここぞ...

どんな名でもこの花は

長い間ひとりで噛み締めてきた思いがある。そいつには名前がない。ただ不快なのかというとそれも違う。噛み締めすぎて苦味に慣れてしまった感があるのが笑えてしまうほどだ。かと言って仕込みが終わった後の一服で誤魔化せるほど簡単なも...

詩人

海の色は青じゃねェんだなと隣の剣士が呟いた。刻の頃は、見張りのおれとゾロ以外寝静まった真夜中だ。しかも今夜は新月、珍しく平穏な航路は見渡す限り闇に包まれている。 「そりゃまあ、少なくとも今は青じゃねェよな」 四角い窓の外...

フェスsz

『新世界からお越しのサンジ様、新世界からお越しのサンジ様、お連れ様がお待ちです。インフォメーションセンターまでお越しください、繰り返します。新世界からお越しのサンジ様…』 「だーーッ!あんの迷子野郎、やっと見つけたぜ!」...

刻すでに甘し

思いがけずよく笑う野郎だと思った。おれに対して以外の奴らには。しかめ面が緩むのはどんな時かも見切った。酒をかっ食らっている真っ最中。寝ているようでも敵の気配には誰よりも敏い。そんな男が隙を作る時があるのを知る。(厳ついだ...

ひとひら問答

「お前、恋占い知ってるか?花びらを一枚ずつちぎって…」 「あぁ?花びら?」 「そう、こう、マーガレットとかな、ちぎりやすい花を一枚ずつ順番に『好き、嫌い、好き…』ってな。で、最後に残ったのが」 「最初に数えりゃ分かるんじ...

初桜

今年も、近所で一番気の早い桜が満開を迎えた。 昨年よりも少し遅く、花冷えのする朝晩を様子見していたのかもしれない。とはいえ周りの見栄えのする大きな桜たちは、まだ悠々と花開かせる準備中である。満開を待てずにカメラを向けるア...

St.Valentine’s day for sz 2022

その花を見つけたのは、偶然だった。 これはきっと我らが一味の麗しき考古学者が、ひっそりと屋上の花壇の隅に植えていたに違いない。そう思って尋ねてみると、「いいえ、知らないわ」と明瞭な答えが返ってきた。彼女が知らないなら、こ...

時計を贈る

時を刻むものを贈る。 それはとても、ベタな行為のように思えた。いや、このおれが、料理ではない何かを誰かに贈るなんてこと自体がだ。レディにならいくらでも捧げる物は思いつく。思いはつくが実際おれは、誰か『特別な』レディに何か...

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