愛なんかじゃ

「愛は、愛は、愛はぁ〜♪」「うるっっっっせェな! キモい歌バカでけェ声で歌うな!」「あああん? ったくこれだから藻頭はよ。愛の上澄みのひと雫でも解そうって気には……ならねェんだろなあ?」「何を宇宙語喋ってやがる。うるせェ...

再録集が出ました(事後)

 すっかり更新をしていなかったので忘れていたのですが、2023年6月 エアブー合わせで新刊を出しました。 「青緑綴り」再録集です。 サンゾロの小説をまとめたいとずっと思っていましたが、何分書き始めてあまりたっていないので...

夢なら解いて

【R18】海賊世界軸。同じ夢を見た二人。拙本の再録集に書き下ろしとして収録していたものです  明け方に見る夢は、たいていが救いのない顛末だ。ある時は、崖から足を踏み外したところで目が覚める。またある時は船を乗り過ごしたと...

愛よりも青い海

 その島はあまり大きくはなかった。  遠くから見れば何か柱のようなものが突然海から突き出たような形をしている。近づいてみれば空に向かって聳え立つ絶壁は、そこを登る人間をとことん拒むかのように反り返り、岩々には荒くれた波が...

ある海賊の告白

傷に強い男だと思っている。  誰が見てもわかる派手な傷ばかり持つ野郎だ。大きく裂けた胸の傷跡、縦に蓋をされた左の眼、雑な縫い跡が残る足首。そしてもっと近づいてみれば、腕や肩にも無数に細かい刀傷がある。 おそらく自身の誇り...

真夜中のガスパール

 確かに見覚えのある界隈だ。 人通りはすっかり途絶えていた。この辺りは地元の飲み屋が数軒、ひっそりと営業しているだけの、錆びた時代の忘れ物のような通りだ。シャッターを下ろした店が狭苦しく並ぶ寂れた横丁を抜け、歪んだトタン...

眠れぬ夜を

 眠れぬ夜はあきらめて、濃い目の珈琲と肺深くの煙に限る。 電灯のように丸く馬鹿デカい月が宙に浮いているその真下には、ただ無言の黒い海があって、その闇間を月は照らそうとしている。その光から逃げるようにゆらゆらと揺れる波。こ...

紅に染まれば

 今年最後のいのちの波動を見せつけるかのように、今が錦と彩どり豊かな葉を青い天いっぱいに広げた樹林のなかで、常に変わらず緑の葉を為している木々がある。「てめェみてえ」 ボソッと、確信犯的に呟いた男の頭上には、同じ色をした...

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