始まりの話をしよう

「海賊狩りを捕らえたぞ!」 扉の向こうから、気勢を上げる野太い大合唱が聞こえて来る。 海賊狩りだと? まさかあのアホ。 この島の大切な特産物を密輸している船が停泊しているというんで、この島の住人たちにたっての願いだからと...

刻すでに甘し

思いがけずよく笑う野郎だと思った。おれに対して以外の奴らには。しかめ面が緩むのはどんな時かも見切った。酒をかっ食らっている真っ最中。寝ているようでも敵の気配には誰よりも敏い。そんな男が隙を作る時があるのを知る。(厳ついだ...

ひとひら問答

「お前、恋占い知ってるか?花びらを一枚ずつちぎって…」 「あぁ?花びら?」 「そう、こう、マーガレットとかな、ちぎりやすい花を一枚ずつ順番に『好き、嫌い、好き…』ってな。で、最後に残ったのが」 「最初に数えりゃ分かるんじ...

初桜

今年も、近所で一番気の早い桜が満開を迎えた。 昨年よりも少し遅く、花冷えのする朝晩を様子見していたのかもしれない。とはいえ周りの見栄えのする大きな桜たちは、まだ悠々と花開かせる準備中である。満開を待てずにカメラを向けるア...

St.Valentine’s day for sz 2022

その花を見つけたのは、偶然だった。 これはきっと我らが一味の麗しき考古学者が、ひっそりと屋上の花壇の隅に植えていたに違いない。そう思って尋ねてみると、「いいえ、知らないわ」と明瞭な答えが返ってきた。彼女が知らないなら、こ...

時計を贈る

時を刻むものを贈る。 それはとても、ベタな行為のように思えた。いや、このおれが、料理ではない何かを誰かに贈るなんてこと自体がだ。レディにならいくらでも捧げる物は思いつく。思いはつくが実際おれは、誰か『特別な』レディに何か...

恋という名の絶望 (R18)

それは、ただの処理だった。 お互いに合意の上で、それ以上のことは望んでいなかった。 何かを欲しいと思った事はある。でもひとりの人間が対象だったことはない。 それなのに。 満たされない。 渇きは、ひどくなる一方だ。 ⭐︎ ...

蓋し夜の果て

虎の目の前で、扉が開いた。 虎は、扉を開けた主をじっと見つめた。一歩、前足を進めるか逡巡した。どうにも間合いを計りかねる。此処への道中、何度もぬかるみを踏みしめて来たせいか、濡れた体毛がまとわりつくせいか、足元が不安定だ...

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